2024年05月05日

「かかりつけ医」プライマリケアの現状と問題

 近年国・厚労省が進める「かかりつけ医」について、興味深い研究結果が蓄積できましたので、まとめます。

かかりつけ医を持っている人・いない人の特徴 〜コロナ禍の全国住民調査で社会的要因による格差が明らかに〜
https://research-er.jp/articles/view/126340

東京慈恵会医科大学の青木拓也氏、松島雅人氏らによれば、1,757 人に対する調査(回答率87.9%)で、1,011人(57.5%)がかかりつけ医を持っており、そのうちかかりつけ医が診療所の医師である者は 769人(76.1%)、かかりつけ医が病院の医師である者は 227人(22.5%)。またかかりつけ医が病院の医師である人の特徴として、「男性、慢性疾患あり、健康関連QOLが低い」、かかりつけ医を持っていない人の特徴は「男性、慢性疾患がない、社会的孤立状態にある、ヘルスリテラシーが低い」。

ここから、男性でヘルスリテラシーが低いおそらくは低所得者が医療から取り残されている懸念が伺えます。慢性疾患が無く大きな健康問題が無いがゆえに、日常的に頼れる医療機関が無く、コロナ禍で「ワクチン難民」が発生したことを説明できそうです。

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かかりつけ医の継続的な厚いケアを受けている家族介護者のストレスは低い
https://research-er.jp/articles/view/123181

筑波大学の桝本祥一氏、慶應義塾大学の春田敦志氏らによる406名自宅介護者のストレスについてのアンケートによると、かかりつけ医機能が高いかかりつけ医を持つほど、ストレスが低減する。かかりつけ医機能はJapanese version of the Primary Care Assessment Tool(JPCAT)短縮版、介護ストレスは短縮版Zarit介護負担尺度日本語版を用いて評価した。特に継続性(全人的な人間関係に基づく診療)と包括性(必要なときに幅広いケアや助言を受けられる)が高いかかりつけ医ほど、家族介護者のストレスが軽減されていた。

これはかかりつけ医(療機関)が専門診療のみならず文字通りプライマリーな「幅広い診療、まず相談受診できる」ことや「馴染みの関係性」町内近所の隣人でもあるいわば「町医者」的な関係性が、自宅介護を支えているという見方ができそうです。これは石のみならず看護師や事務員などまで含めて、「顔なじみの関係」あればこそであろうかと思われます。

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コロナ禍における調査で かかりつけ医機能と孤独の度合いの関連が明らかに
https://research-er.jp/articles/view/121803

横浜市立大学の金子淳氏、後藤温氏らによれば、横浜市の20〜74歳の住民1,277名に対するアンケートから、かかりつけ医療機関を持つ人は持たない人に比べて孤独の度合いが低いことを明らかにした。かかりつけ医機能の評価には「患者中心のプライマリ・ケア評価尺度(PCPCM)*2」、孤独の評価には「UCLA 孤独感尺度 3 項目版*3」を用いた。
かりつけ医療機関を持っている方は 55.8%、かかりつけ医療機関がある人は無い人より孤独の度合いが0.34点(12点中)低かった。

 これはコロナ禍中でのアンケートなので、通常よりコミュニケーションが制限された中で、メンタルヘルスにプライマリケアが果たす意義を示しているように見えます。うつ病は障害罹患率が人口の二割とも言われるので、かかりつけ医・プライマリケアがその発見者となる可能性は高いと思われます。言い換えればプライマリケアでは精神科医療との連携接続、リエゾン精神医学の観点が重要と考えられます。

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かかりつけ医機能が高いほどコロナ禍での入院リスクが低下 〜高いかかりつけ医機能を発揮する医師を持つと入院リスクが約 6 割減少〜
https://research-er.jp/articles/view/118494

東京慈恵会医科大学の青木拓也氏、松島雅人氏らによれば、コロナ下の2021年5月?2022 年4月に実施されたプライマリ・ケアに関する全国前向きコホート研究(National Usual Source of Care Survey:NUCS)の7万人のデータから1,161人を対象者として、入院を評価項目として解析したところ、12か月内に87人(7.5%)が入院し、うち、5人 (5.7%)はコロナによる入院だった。723 人 (62.3%)がかかりつけ医を持っていた。Japanese version of Primary Care Assessment Tool (JPCAT)短縮版でかかりつけ医機能を評価したところ、特典が高いほど患者の入院リスクが低下した(オッズ比0.37)。

これはかかりつけ医が全身管理できている、あるいは日常的な健康相談ができる、さらに感染対策やワクチン接種等が適切に行われることが、疾患コントロールを良好にし保健レベルを向上させたと考えられます。

なおかかりつけ医の有無でコロナ入院率がどうか、興味深いところです。

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高齢者のケアの分断を調査 Yokohama Original Medical Data Baseを用いた 横浜市75歳以上住民の全数調査を実施
https://research-er.jp/articles/view/113649

「ケアの分断」なくすには かかりつけ医に期待 へき地医療がお手本に
https://www.47news.jp/8555181.html

横浜市立大学の金子惇氏らは、横浜市医療局医療政策課と連携し横浜市のデータベース(YoMDB)を用いて2018年4月1日から2019年3月31日の間に年4回以上受診した横浜市民の全レセプトデータを解析し、ケアの分断について調査した。対象者は41万3600人、年齢の中央値は81歳、1年間の平均受診医療機関数は3.42か所、最大は20か所、1年間に2か所以上の医療機関を受診した人は全体の85%であり、他国の研究からケアの分断の程度が高いとされるケアの分断指標0.7以上の割合は全体の26.1%であった。 

「ケアの分断」とは香港の研究者が提唱した概念で計算式があるようですが、年間受診数と受診医療機関数から導かれる指数のようです。図2では年に二か所以上受診した人の中の指数分布を示していますが、細分化しての受診医療機関数や受診回数による指数は不明です。おそらく、受診医療機関数が増えるほど指数は悪化すると文脈から推測され、興味深いところです。

これの意味するところは、フリーアクセスによる「病院ショッピング、ドクターショッピング」は実は患者の健康利益を損ねているという相反です。しかも全体の1/4が逆に不適切な日常医療になっている、ということになります。ポリ・ファーマシー多剤併用の害が言われて久しいですが、それ以前の根本的問題としてポリ・ドクターも言われるようです。

高齢になれば内科疾患(基礎疾患)に整形外科的問題、プラス何か、と3科程度の受診は致し方ないところかと実感しますから、例えば5か所以上受診したり、10か所以上ならどうか? それが問題になりそうです。

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在宅療養支援診療所・病院による在宅医療は効果を上げている〜一般診療所より患者の入院が少なく、緊急往診・在宅見取りが多い〜
https://research-er.jp/articles/view/119327

筑波大学の田宮菜奈子氏らによれば、全国のレセプトデータ(NDB)のうち一般診療所1 万3477人、従来型在支診・在支病:6万4616 人、機能強化型在支診・在支病:8万2581 人を含む16万674人の調査から、一般診療所を利用する患者と比べて在支診・在支病を利用する患者は往診が多く、入院が少なく、死亡時に医師の立ち合いを伴った在宅看取りが多い、さらに機能強化型在支診・在支病を利用する患者は往診や在宅看取りがより多い、ことが分かった。

1回以上の入院の調整後オッズ比は、従来型在支診・在支病:0.86、機能強化型在支診・在支病:0.88と有意に少なかった。追跡期間中に死亡した3万9082人(一般診療所:2483人、従来型在支診・在支病:1万4494人、機能強化型在支診・在支病:2万2105人)における在宅看取りの調整後オッズ比は一般診療所比で従来型在支診・在支病:1.46、機能強化型在支診・在支病:1.60、医師の立ち合い在宅看取りは4.81、10.55。

ある意味当たり前ですが、在宅医としての活動を強めるほど、在宅看取りは増える。ただその負担がどうか。必要な学会にすら行けない、という生の声も聴きました。また「死なせること」と「看取ること」は似て非なるものです。かつて筆者は「訪問看護ステーションは初めてですが、初年度一年で100人以上看取りました」と豪語していたところがありましたが、普通に考えて「何もできずに、死なせただけ」ではないかと疑ります。

しかし町に根差した「町医者」が絶滅危惧種!? で「ビル診、サラリーマン開業医」がほとんどの今、そしていよいよ病院のキャパが不足し介護施設での看取りも介護職が減少に転じて難しいにも関わらず要介護者増の今後、看取り難民増加に対しては、「在宅医療、在宅看取り専門クリニック」に頼るほか、なくなるのかも知れません。

これは筆者の思い付きですが。それが嫌なら、地域住民が出資して、志ある医師や看護師を招き集め、「町医者」として日常診療から看取りまで、細く長く、文字通りの「かかりつけ医、主治医」を地域が自ら育む、そんなことを成すべきなのかも、知れません。医療版「ソシオ」でしょうか。

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在宅療養高齢患者さんの在宅死の累積発生率と要因を多施設共同の追跡調査で明らかに!〜在宅療養患者さんと医療者、そして医療政策担当者への基礎的資料を提供〜
https://research-er.jp/articles/view/116397

これはつまり、在宅死、在宅看取り、在宅ホスピス(?)を実現するに必要な条件を示すものです。2019年、日本では個人宅での死亡はわずか13.6%ですが、調査では「自宅で死にたい」希望は7〜8割を示します。このギャップが問題です。

東京慈恵会医科大学の松島雅人氏らによれば、2013年2月1日から2016年1月31日までに東京圏の13施設から在宅医療を受けた762人について、368人が死亡し、うち133人(36.1%)が在宅死だった。在宅療養開始早期は、在宅死が多いが、在宅療養が長期化すると在宅死が減った。在宅死と関連するのは、高齢、ADLが高い、HOT、家族介護者の存在、だった。

これは言い換えると、近年の在宅専門クリニックの増加と、病院での看取り困難により、良くも悪くも「最後は在宅で」という流れがあるとも理解できます。すなわち積極的医療の対象でなければ、家族介護者が確保できれば、在宅死させ得る。

介護保険制度は介護の社会化といいつつ、結局は家族介護力をアテにしていました。老々世帯で老々介護、高齢独居世帯が全世帯の半数の今、介護保険制度の前提がとうに破綻しています。在宅療養期間が長くなると在宅死亡率が下がるのは、介護疲れのためかも知れません。

「在宅療養開始後、初期の段階で在宅死亡の累積発生率が急上昇したのは、在宅で亡くなることを前提に在宅療養を導入した終末期患者のためであると考えられます」の通り、筆者も突然、FAX一枚で「押し付けられた」ガン末期の方を看取った経験もあります。孤独死と言わず、独居で倒れているのを発見、救急要請、でもどうする、蘇生しないなら捨て置く!? 「看取り搬送」も考えなくてはならない、はずの現状です。

「在宅で死なせる」のと「自宅で死ねる」ことは、意味が全く違います。「自宅で死ねる」そのためには、医療側も患者側も家族も、まだまだ為すべきことがあるように思えます。

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 以上、2022年からこれまでの中で特に注目すべきリアルデータ分析結果をまとめました。

 総じて示されたのは、身近に気軽に相談受診できるかかりつけ医機能が高いかかりつけ医が居ること、さらに訪問診療や看取り往診に対応できることが、超高齢化・看取り社会の高齢者のより良い自宅生活、保健と看取りに重要であるということと言えます。その点でプライマリケア医療者は、専門性に特化するのみならず「木を見ず森を見よ、臓器ではなく全身心身を見る」という姿勢と実践が重要になると考えられます。
posted by 実践研究員その一 at 13:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・制度

2024年02月24日

「アゴラ」記事投稿「神戸徳洲会事件を考える:重箱の隅を突いて救急医療崩壊させてはならない 」


不祥事が続くこちらの病院ですが、だからといって、盲目的延命や不適切な救急車利用を是として、病院や職員を糾弾して良いわけでは、ありません。

我が国医療を蝕む、盲目的延命と不適切な救急車・医療利用、死生観なき医療と生き方こそ、対策の対象たるべきです。

https://agora-web.jp/archives/240223093745.html
posted by 実践研究員その一 at 18:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・制度

2023年11月06日

執筆記事掲載「始まる介護崩壊。世代間扶助型社会保障の破綻から目を背けるな」

いよいよ社会保障特に介護に危機的状況の兆しが見えつつある日本。
社会保障と介護そして盲目的延命医療の是非について書きました。

言論サイト・アゴラではこれを受け、社会保障・保険料についての投稿を募集しています。

https://agora-web.jp/archives/231029062656.html
posted by 実践研究員その一 at 12:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・制度